top of page

「ダ・ビンチ」と「ブラック・ジャック」 後編

前編はこちら NHKBS「ザ・ヒューマン 立ち止まらない外科医」の番組を見て驚いたことがもう一つあった。


番組で取り上げられた患者さんの病名が私と同じだった。


「神経内分泌腫瘍」


悪性の腫瘍で、発症率は低い。いわゆる、希少がん。


数年前、2年に一度クリニックで受けている大腸内視鏡検査で偶然みつかった。 3mm程度だった。

市立病院に入院し、内視鏡で切除してもらった。あまりの小ささに、執刀医は患部をなかなか見つけられなかった。知り合いの医師に話したら、そのサイズで見つけるのはかなり難しいらしい。幸運としか言いようがない。もしかしたら今こうして生きていられなかったかもしれない。


番組に出てきた患者さんは一度他院で外科手術を受けたが、がんの一部が取り切れておらず、さらに前の手術で周囲が繊維化し、肛門の機能を維持しながら再手術を行うのは極めて難しいケースだった。他院では再手術は可能だが永久人工肛門が必要だと言われた。患者は人工肛門を受け入れられなかった。しかし家族は命を優先して欲しいと願った。両方を尊重できる治療をしてくれるところはないか探し、竹政教授に辿り着いた。

竹政教授のチームは、術後の合併症回避のため3ヶ月間の一時人工肛門装着を提案した。想定される事態を全て事前に説明した。患者に高い医療技術を提供するだけでなく、患者の人生に関わる重責を担うという意識を常に持ちながら、患者にとっての最善を共に考える。 ダ・ヴィンチ手術は無事成功し、肛門も神経も全て温存しながら腫瘍は全て取り切った。 私が生きているこの時代に、ブラック・ジャックは実在した。


竹政教授は、医療の地域格差をなくすため遠隔で術中指導を行うシステム開発や後進育成に力を注ぐ。番組の終盤、琉球大学に遠隔治療指導システムを使って札幌からリアルタイムで遠隔指導を行うシーンが出る。20年前には想像すらできなかったことが現実となっている。


技術革新は人々の生活を根本から変える。

しかし、そこに人の想いと行動がなければ、技術は有形無実化される。

ダ・ヴィンチの進化は、医師と技術者の弛まぬ努力があってこそ成し遂げられたものだと思い知った。

前編に掲載した写真は、竹政教授が大事にしている言葉に関連した一枚を選んだ。


雲外蒼天」

雲の外に蒼い天がある
五里霧中の中にいて
どっちに歩いて行ったらいいか
わからない時がある
決断を遅らせずとにかく求めていけば
いつかは必ず光が見えてくる
やり続けた人にしかわからない
歩き続けて
迷いながら歩き続けて
光が見えたときの喜びはひとしお

逃げなければ見えてくる景色があるとずっと信じてきた。 その景色を表現する言葉を、竹政教授が教えてくれた。 静かな感動を憶えた。


私は、光が見えたときの喜びを知っている。 だからこそ、これから来るかもしれない雲にも、立ち向かうことができる。




bottom of page