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Velas Içadas


昨夜のライブの、3rdステージ2番目に演奏した曲です。

Vítor Martinsと共に「Velas Içadas」を作曲したIvan Linsは、ブラジルを代表するグラミー賞受賞アーティストです。米国のジャズ界に大きな影響を与え、彼の作品はPatti Austin, David Benoit, George Benson, Michael Bublé, Eliane Elias, Ella Fitzgerald, Dave Grusin, Shirley Horn, Quincy Jones, Steve Kuhn, the Manhattan Transfer, Sérgio Mendes, Jane Monheit, Mark Murphy, Carmen McRae, Joe Pass, Lee Ritenour, Sarah Vaughan, Diane Schuur, Sting, Barbra Streisand, Take 6, Toots Thielemans, and Nancy Wilson.など、錚々たるミュージシャンによってカバーされてきました(Wikipediaより)。

イヴァン・リンスの曲の魅力は、独特で難解なメロディーとコードにあります。

Velas Içadasも難曲のその一つです。最初聴いたとき心染み入ったので、レパートリーとして果敢に(?!)演奏しています。

Velas Içadasを直訳すると「上がった帆」です。

これだけ聴くと、帆船が今まさに意気揚々と大海を突き進んでいくような場面を想起させるのですが、歌詞の内容は全くその逆なのです。

そこで、歌詞をほぼ直訳で全訳してみました。 Seu coração é um barco de velas içadas

彼の心は帆のあがった船だ。 Longe dos mares, do tempo, das loucas marés

海からも、天候からも、荒れ狂う潮からも遠ざかっている。 Seu coração é um barco de velas içadas

彼の心は帆のあがった船だ。 Sem nevoeiros, tormentas, sequer um revés 霧も、嵐も、不慮の出来事にも関係ない。 Seu coração é um barco jamais navegado

彼の心は、もう二度と航海することのない船だ。 Nunca mostrou-se por dentro abrindo os porões

決して内部を見せず、船倉をあけることはなかった。 Seu coração é um barco que vive ancorado 彼の心は、投錨した船だ。 Nunca arriscou-se ao vento, às grandes paixões

風や大きな情熱に身を賭すことはなかった。 Nunca soltou as amarras

決してもやい網を解かず Nunca ficou à deriva 決して漂流せず Nunca sofreu um naufrágio

決して遭難することはなかった。 Nunca cruzou com piratas e aventureiros 決して海賊や冒険に出くわすこともなく Nunca cumpriu o destino das embarcações 決して乗船の目的を果たすことはなかった。

彼の心は、Velas baixadas(下がった帆)なんじゃないのかなー、矛盾してないかなーと思いながらも、敢えて「上がった帆」というからには何か意味があるんだろうと、私なりに考えてみました。

ここからはあくまで私の解釈で、正しいかどうかはわかりません。 Velas Içadas「上がった帆」は、まさに彼の心そのもの。本当は出帆する心の準備はできているのに、身動きがとれない。つまり、進みたいという意志がありながら前に進めない状況を表現しているのではないだろうか。軍事政権下のアルゼンチンを研究テーマにしていた私の脳裏には、政治的に抑圧された状況下にある人々の姿が頭に浮かびました。

何もしなければ身の危険から免れた生活が保障されるが、決して人生の目的を遂げることはできない。

彼の気持ちを想うと、とても切なくなります。 私の解釈について、今度ブラジル人とディスカッションしてみたいと思っています。

続編にご期待ください。



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