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「千年アート」庄原市比和町三河内を訪れて

家は風をいれないと、すぐダメになる。 今年3月、約3年ぶりに広島の田舎に帰省した。

コロナ禍で帰省できなかった間、母屋の荒廃が急速に進んでいた。 ショックだった。 山の管理もさることながら、できるだけ早く母屋の修繕に取り掛からなければならない。 はたして、築推定200年を超える古民家修繕を受けてくれる業者をみつけられるだろうか...

これまで、田舎のことで難題に直面するたびに、見えない力に支えられてきた。

今回も、その不思議が起こった。

林業の繋がりが、素晴らしいご縁へと導いてくれた。


去年の秋、山の管理を本気で考え始め、その流れで知り合ったNPO法人自伐型林業推進協会さんの紹介で、庄原市の株式会社FOREST WORKERさんと繋がり、3月にF.W.さんの事務所を訪れた。 社長の田村さんのご実家の納屋を改築された事務所に入ると、無垢材の床がとても心地よくて、突っ伏してほっぺたをスリスリしたい衝動に駆られた。 早速、改築を依頼された工務店を訊ねてみた。 「奥田工務店さんです。古民家を大事にしたいという熱い想いをもった素晴らしいかたです。一棟貸しの古民家宿、長者屋も手がけられました」 私の感度抜群の「魅力的な人キャッチセンサー」が反応した。 次回帰省する時は奥田さんという方に必ず会いに行こうと心に決めた。


7月に法事で広島に帰省することになり、F.W.さんにお願いして奥田さんを紹介してもらった。幸いスケジュールが合い、奥田さんにうちの母屋まで来て頂けることになった。

さらにその前日には、奥田工務店さんのすぐそばにある「長者屋」も見学させてもらえることになった。長者屋を含むせとうち古民家ステイズ」の宿は以前からとても興味があった。建築好きにとって、ワクワクのアポとなった。


比和町は初めてだった。

庄原市街から車で約30分のところにあり、美しい棚田が拡がっていた。


出迎えて下さった奥田さんはお地蔵様のように穏やかで、初対面なのに同じ空間にいるだけで、お話を聞くだけで心拍数が安定した。思った通りのかただった。


ちょうどチェックアウト後の清掃の時間帯で、長者屋を隈なく案内して下さった。


見所満載の空間!! キャプション付きの写真でその魅力をじっくりお伝えしよう(説明というよりは、ほぼ主観的感想だが・・・)。

やはり、古民家再生は元ある場所で行うのがベストだと思う。

我が家は山形県鶴岡市から神奈川県茅ヶ崎市に蔵を移築再生した家。

古材を無駄にしないとか、今では入手困難な大径木の柱や梁をふんだんに使用できた、という点では大きな意味はあったと思うが、躯体にとっては環境が変わる場所に移動させるよりも、長い年月をかけて順応した場所で再生させる方がより自然な気がしていて、長者屋に来て改めてそう思った。

私の田舎の母屋は、予算の都合上長者屋のように洗練された再生はできないが、その土地で

できうる限り蘇らせたい。

 

長者屋の三和土に繋がっている「ヒストリー・ルーム」には、昔の人々の暮らしぶりが伺える貴重な写真が飾ってあった。

このエリアは昔牛舎だったそう。 かつて牛は人と同じように大事な働き手だったので、同じ棟で暮らしていた家が多かったそうだ。

一方、うちの母屋は牛舎とは別棟だ。

どうしてうちは別だったのか、亡き祖母に訊いてみたかったな。

「記憶を記録する」というヒストリールームのコンセプトは他の場所にも反映されていて、床板裏面には、ワークショップに参加した人の名前が記してあるそう。

未来の人たちが床板をはがしたときに、名前の人々に想いを馳せることになるだろう。

余談だが、我が家も毎日、玄関蔵戸の裏に書いてある当時の施主「佐藤徳次郎さん&寅吉さん」と棟梁の「萬年萬吉さん」の名前を眺めながら過ごしている。

日々、護られているような感じがする。


奥田さんのFacebookプロフィール写真はヒストリールームで撮られたもので、とても素敵なので私も真似っこしてみた。

奥田さん撮影。

まるで、先人たちに背中を押してもらっているかのよう。お気に入りの一枚になった。

うちの田舎にも古い写真が一杯眠っているはず。

いずれ、母屋の隣にある納屋に「ヒストリールーム」を作って飾りたいな~。

真似っこしたいな~。

夢は膨らむ。

 

奥田さんに他の場所でも写真を撮って頂いた。

さすが、アングルが素晴らしい。

どこを切り取っても絵になる長者屋を後にして、裏手を散策した。

地域の人々の手によって、絶滅危惧種に指定されているヒゴタイ(キク科)が大事に育てられている畑や、三河内八十八か所の由来が書いてある掲示板(奥田さん制作、さすが!)を案内して頂いた。

奥田さんや地域の方々がいかにこの土地を愛し、大切に守ってこられたかを実感し、限界集落になっているうちの母屋のある地域も何とかしたいという想いが沸々と湧き上がってきた。

 

奥田さんは地域の様々な活動のみならず、国際交流活動にも関わっておられる。

工務店の事務所奥には巨大な世界地図と各国お土産コレクションが陳列されている素敵な空間があった。

陳列棚ももちろん、手作り。 いいなあ。

グローバルな視点で地域を盛り上げようと尽力されている取り組みに深く共感した。

 

締めは、棚田を一望できる「棚田テラス」へ。

今年2月、「つなぐ棚田遺産」に認定された この絶景は、1000年以上もの時をかけて作られてきた。

いつまでも眺めていたい原風景だ。


三河内をじっくりと丁寧に案内して頂いたおかげで、建物だけでなく地域全体を守る尊さに意識が向いた。

連綿と受け継がれてきた先人達の智慧を次の世代に繋いでいかなければならない。

山林、家、そして地域へと、私の想いは膨らんでいった。


庄原滞在記はこの後もつづく...

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