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音楽からジェンダー問題を考える その1

いいメロディだなーと思っても、歌詞の内容には全く惹かれない曲がある。

たとえ歌詞の内容に共感できなくても、メロディにフィットした言葉選びにこそ芸術性があるのだろうと思い、レパートリーとして演奏してきた。


しかし、今年に入ってある出来事がきっかけとなり、考え方が変わった。


ある出来事とは、CD「HOME」4曲目の「Com açucar, com afeto(砂糖と愛情と)」に纏わる話。


今年2022年1月19日は、ボサノヴァのミューズ、故Nara Leão ナラ・レオンの生誕80年記念日だった。奇しくも 40年前の同日、ブラジルの国民的歌手、故Elis Regina エリス・レジーナが命を絶った日でもある。


記念日に合わせてナラ・レオンの特集があちこちで組まれ、ナラの歌った曲が注目される中で、世界的にジェンダーフリーへの流れが加速する2022年には違和感をもって受けとめられた曲があった。

その一つが、Com açúcar, com afetoだった。


今年の2月、登録しているブラジル音楽サイトLetras のメーリングリスト「Ana do blog 」から衝撃的な内容のメールが届いた。


【2022年2月11日付けメーリングリストより】

O cantor revelou que não irá mais cantar Com Açúcar, Com Afeto e Pelas Tabelas, por considerar que as músicas já ficaram datadas.
「Chico Buarque シコ・ブアルキは今後Com Açúcar , Com AfetoとPelas Tabelas の2曲はもう時代遅れだと考え、二度と歌わないと公表」

これらの曲の歌詞が女性蔑視とみなされフェミニストの標的となり、シコ自身もフェミニストの意見は正しいと思うから、レパートリーから外す、とブラジル版サブスクネット配信サービスGlobo Play の番組 「O Canto Livre de Nara Leão (ナラ・レオンの自由な歌)」で発言したそうだ。


Pelas Tabelasに関しては演奏したことがないので言及を避けるが、そもそもCom Açúcar , Com Afetoは、ナラ・レオンがシコに「家で夫の帰りを泣きながら待つ妻を表現する曲を作ってほしい」と依頼してシコが作ったもので、シコ自身の考えを反映したものではなかった。

よって、シコの決断は極めて合理的だったと思う。


私もこの曲の歌詞を初めて読んだ時、なんと前時代的だろうと思った。そして、ブラジルも日本もかつては同じような時代を生きていたことを認識した。社会においても家庭においても女性は男性に虐げられていた時代背景を曲として記録に残すことには意味があったと思う。


しかし、今後ライブでこの曲を演奏するかどうかは私も今一度考えたいと思っている。

演奏するときは、たとえ日本のオーディエンスがポルトガル語を理解しなくても必ず曲の内容について説明をしたいと思う。


その2につづく



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