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ブラジルポルトガル語辞書の発音記号について~その1~

前回の記事で、白水社の「現代ポルトガル語辞典」アプリの発音記号への疑問について書きました。辞典に記載された発音記号の引用元は何か、音声入力をした女性はどこの国の人なのか。これらの疑問を直接白水社に問い合わせたところ、以下の回答がきました。


音源につきましては、お吹き込みいただいたのは、ブラジル生まれのネイティブの方です。ブラジルの標準的な発音です。発音記号もブラジルのものです。


一体、標準的というのはどれを指すのかさらに疑問が生じたので、「サンパウロの発音のことか」と追加の質問を送ったところ、以下の回答が来ました。

「標準的なということが「サンパウロ」の発音ということかどうかはわかりません。

吹き込み者の女性はクリチーバの生まれと言っていました。

吹き込みに立ち会った外語大のブラジル人のネイティブの先生が、きれいな発音だと言っていましたので、標準的なものと認知される発音であることと思います。

なお、発音について等の概説はアプリの「付録」というところに示されています。


うーむ。

白水社の回答を読んで驚いたことが3つありました。


驚いたこと①:標準的な発音の判断基準はたった一人の外語大ブラジル人ネイティブの先生だった!

「ネイティブが発音して一人の外大のネイティブ講師が聴いて綺麗だと評価したから標準的である」という説明はエビデンスにかけています。結局、標準の発音がどれを指すのかわからないままでした。


驚いたこと②:発音記号の引用元の辞書は1964年発刊


回答に従って「付録」を確認しました。ずらっと沢山の項目が書いてあり、その中から「使用上の注意点」→「2発音」の順でやっとみつけました(これもわかりにくかったな。。。)


なんと、1964年ニューヨークで発刊された辞書「The New Barsa Dictionary of the English and Portugues Language, vol 22)でした。編纂者はリオデジャネイロ出身の故Antônio Houaiss氏です。おそらく、白水社辞書編纂者は当時から変化はないと判断してそのまま音声入力を行ったと推測しますが、果たしてこの56年間に本当に発音の変化はなかったのでしょうか?しかも、引用元の辞書の発音記号が本当に標準的なものであると言えるのでしょうか?


驚いたこと③:発音の説明に一貫性がない


「付録」をさらに読み進めていくと、発音に関する説明が書いてありましたが、煩雑で一貫性がありません。例えば、今回調べたかった[a]の音に関しての説明が2か所に書いてあり内容もバラバラです。バラバラにならざるをえなかった理由は調べていくうちに判明しました。

以上の驚きの3点については、それぞれ詳しく検証した結果を後述します。


ここで、一つ追記があります。

前回の記事に、[caminho]のcaの音はmの前にあるので[ɐ]になるのではないかと、書きました。

それはブラジル人北東部出身者と日本人のご夫婦が運営している以下のページを参考にしていました。

実際、Dicionário Fonéticoで調べたポルトガルのポルトガル語の発音記号は[ɐ]となっていたので必ずしも間違いとは言えませんが、白水社の辞書によると「m,n,nhの前で強勢のある音節の場合」とありました。この発音ルールに当てはめるとサンパウロの発音が[a]となっていたことも理解できます。


繰り返しになりますが、ブラジルのポルトガル語発音に関して様々な情報が錯そうしています。その情報をできるだけまとめていければと思っています。


今年はスペイン語回帰のはずだったのですが、やはりポルトガル語も面白い!!!


注 イメージは内容と関係ありません


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